第29回:今戦ったらどこが勝つ? "現代版"魏・呉・蜀の戦力を徹底検証

文:中国エトセトラ編集部

ダイナミックなタッチで英雄たちの活躍を描いた「三国志」

“天下三分の計”を説いた蜀の軍師・諸葛亮

魏の支配者・曹操。現代を舞台に再び覇権を狙うなら、どんな戦略を立てる?

蜀の猛将・張飛。現代にやって来ても、その暴れっぷりは健在か!?

武器や防具など、細部まで作り込まれた美術にも注目したい

広大な中国大陸を三分し、魏・呉・蜀が天下の覇権を巡ってしのぎを削るさまを描いた中華歴史ドラマ列伝「三国志」。悠久の歴史を持つ華北平原を支配する魏、大河長江を擁する呉、天然の要害と言われた四川盆地に割拠する蜀...といった具合に、劇中では英雄たちの活躍に加え、三国それぞれの風土や気質がリアルに再現されている点も見応えがあっておもしろい。今回は、これらの土地事情も含めて「もしも現代の中国が再び魏・呉・蜀に分かれて争ったら、有利なのはどの国か?」をシミュレートしてみました。


魏...豊富な地下資源と農業技術の発達により、高い自給率を誇る

首都北京を支配する魏は、三国時代と同様、政治的には絶対有利な立場だ。国際社会にあっても、中国の主権者として認められるだろう。さらに、三国時代には開発されていなかった東北地方を支配できることは大きなプラス要因。ここは石炭や石油などエネルギー資源の宝庫であるばかりでなく、近年では農業技術の進歩によって良質な米が生産されている。従来から高い生産性を誇る小麦とともに、食糧自給は万全といえる。だが良いことばかりではない。今や華北は中国随一の公害地帯。深刻な大気汚染に加え、森林伐採によって西北部からおびただしい黄砂が飛来し、黄河をはじめとする河川には大量の土砂が堆積しているのだ。このため水質汚染も進み、ダムではまともに水力発電もできない始末。経済政策と環境問題に同時に取り組まなければならないのが、魏の最大の課題だ。


呉...抜群の経済力を活かし、国際貿易で巨万の富を築く

一方、三国時代には辺境で人口もまばらだった呉。三国時代以降、徐々に北中国からの移民によって人口が増加し、「魚米の郷」と呼ばれる穀倉地帯へと発展した。そして今日、ここは中国バブルを生み出す経済最先端地域といえる。上海、香港という二大商業都市と経済特区を支配し、国際貿易と金融を操れば、魏の政治的影響など問題にならないかもしれない。しかし、この呉でも公害問題は大きな悩みの種だ。長江の水質汚染ばかりでなく、沿岸工業地帯からの汚水は華中・華南沿岸の海水を汚染し、その様子はgoogle earthの画像から確認できるほど。また、呉にとって最大の問題は、その経済活動を支える三峡ダムが、蜀との紛争地域である荊州に位置していることだ。世界最大の発電量を誇ると言われるこのダムを蜀に奪われれば、経済大国呉は完全に息の根を止められてしまうだろう。


蜀...世界遺産と水力発電所を手中に収め、安定した生産性を維持

最後に四川省を支配する蜀。輸送手段や長距離兵器が発達した今日では、「天然の要害」としての地の利は失われたといえる。また、民族紛争が頻発することも蜀にとっては頭の痛い問題だ。だが蜀には他の二国をしのぐ収入源が存在する。黄龍、九寨溝、ポタラ宮にジャイアントパンダ保護区といった多種多様な世界遺産に加え、青蔵鉄道などの魅力あふれる観光資源があることだ。海外旅客誘致による観光収入を得るばかりでなく、自然環境保護を全面に押し出すことで国際世論を味方につけることが可能だろう。さらに、蜀の強みは、中国経済を支える「西電東送」計画のうち水力発電のほとんどを手中にしていること。「西電東送」とは西北、西南部で発電した電力を中国東部に送るという重要プロジェクトなのだ。蜀が三峡ダムや黄河上中流域の発電所を押さえて魏や呉への送電をストップすれば、両国の政治・経済機能を完全に停止することができる。


こうして見てみると、いずれの国もそれぞれの特色を活かした発展を遂げており、尚且つ実力は拮抗している模様。もし再び三国間で争いが起これば、1800年経った現代でもなかなか決着は着かず、三すくみ状態が続くことは間違いないでしょう。今回取り上げた"現代の三国"を舞台に、登場人物たちを実在の政治家やビジネスマンに置き換えた物語があったら、おもしろいかもしれませんね。