第24回:中華歴史の原点「史記」を読めば、ドラマシリーズがもっと楽しくなる!

文:中国エトセトラ編集部

「復讐の春秋 -臥薪嘗胆-」

「大秦帝国」

「復讐の春秋~」の主人公である越王・勾践。「史記」には彼の生き様も記されている

勾践と熾烈な争いを繰り広げる呉王・夫差。傍らには名軍師・伍子胥の姿も

「大秦帝国」の主人公にして、秦を強国へと成長させた立役者・商鞅

中華歴史ドラマシリーズ「大秦帝国」「復讐の春秋 -臥薪嘗胆-」の舞台である春秋戦国時代。この時代も含む、前漢までの中国の歴史を網羅したのが、全130巻からなる歴史書「史記」です。今回は、この「史記」について、詳しくご紹介したいと思います。

概要

中国で書かれた最初の通史(全時代・全地域・全分野について記した総合的な歴史書)である「史記」。本書には、神話上の人物とも言われている黄帝の時代から、前漢の武帝にいたるまでの歴史が130巻に渡って綴られている。そこには王朝の興亡や帝王の生涯だけでなく、将軍、宰相、学者、侠客、富豪などの人間模様が生き生きと描かれ、すぐれた伝記文学作品としても、古来より高く評価されてきた。

著者

「史記」の著者である司馬遷(しばせん)は、前漢時代の史家である。紀元前2世紀の半ばに陝西省竜門に生まれ、父・司馬談(しばだん)の後を継いで太史令となった。司馬談は死の間際に司馬遷を呼び寄せ、中原の通史を叙述するよう遺言したと言われている。20代の頃に、天下各地を旅した司馬遷は、春秋戦国時代の故地や、孔子の故郷である曲阜などを訪れ、各地に残された記録や逸話を大量に収集していた。司馬遷の胸先三寸には、すでに「太史公書」、すなわち後の「史記」の構想が出来上がっていたことだろう。

編纂まで

ところが紀元前99年、司馬遷の身に青天の霹靂ともいえる事件が降りかかる。ことの発端は、匈奴討伐にむかった将軍・李陵(りりょう)の大敗北だった。李陵は、武帝の命を受けて西北へと出陣するが、匈奴の大軍に包囲されてしまう。5000の兵を指揮し激しく抵抗するものの、やがて矢尽き刀折れ、やむなく降伏することとなったのだ。 朝廷では、李陵の一族をいかに処するか大論争が起きた。この時、司馬遷は李陵の弁護にまわったため、激怒した武帝から宮刑に処せられてしまう。宮刑とは、男性器を切り取って宦官にする刑罰であり、これを受けることは死にも勝る恥辱であった。 だが、司馬遷はこの運命を受け入れた。そして、父の遺志であり、生涯の大業である歴史書の叙述に没頭したのである。やがて司馬遷は武帝に許され、官吏として朝廷に復帰するが、その後も叙述に没頭したという。「史記」が完成したのは、彼の晩年であったと考えられている。

日本での認知度

「史記」は、遅くとも奈良時代初期には日本に伝わっていたようだ。平安時代に編纂された歴史書「続日本紀」には、「史記」を引用した記述が多く見られる。また「枕草子」や「源氏物語」からも「史記」の引用が見て取れ、本書が、女性もふくめた当時の貴族たちの間で広く知られていたことが分かる。その後、軍記物や講談にも「史記」は引用されるようになり、中でも「楚漢の興亡」のような有名な物語は、庶民の間でも人気を博した。 古くから漢文として読まれてきた「史記」は、明治以降になると現代日本語訳が刊行され、やがて小説としても親しまれるようになった。中でも陳舜臣の「小説十八史略」(1~2巻が「史記」の叙述にあたる)や、司馬遼太郎の「項羽と劉邦」はよく知られている。また、漫画化された作品としては、横山光輝の「史記」や「戦国獅子伝」、鄭問の「東周英雄伝」などが挙げられる。

「史記」の構成

「史記」は、本紀・表・書・世家・列伝の5つのカテゴリーから構成されている。それぞれの内容は次の通り。

<本紀>12巻
各王朝の帝王の記録である。政治的な重要事項が年代順に記されている。「史記」の読者は、まずこの本紀で、時代の流れを頭に入れることになる。

<表>10巻
文字通り、年表にあたる部分。王朝の系譜や、諸侯の在年、漢王朝の歴代官吏などがまとめられている。

<書>8巻
制度や社会文化の変遷を記した部分。礼(制度)・楽(音楽)・律(法制)・暦・天官(天文)・封禅(帝王の即位式)・河渠(治水)・平準(税制)に別れている。

<世家>30巻
諸侯の歴史について年代順に記したもの。春秋戦国時代の王たちは、周王室から見れば「諸侯」なので、本紀ではなく、この世家に分類されている。この他にも漢王朝の王族や、功臣で諸侯となった者の伝記も、ここに収められている。

<列伝>70巻
多種多様な個人の伝記が記されている。有名な宰相、将軍にはじまり、儒者、酷吏、刺客、遊侠、占師、富豪、滑稽者などのエピソードが記され、本紀では触れられない当時の社会のさまざまな側面を描き出している。「史記」で最もおもしろいと言われる部分である。


"中国の歴史書"と聞くと、難しそうなイメージが先行して敬遠する人が多いかもしれません。けれども誰もが一度は、国語や漢文の授業で「史記」の物語に触れているものです。難しい故事成語は知らなくても、「百発百中」、「右に出るものがいない」、「完璧」などの言葉はご存じのはず。実は、これらは全て「史記」から生まれた言い回しなのです。2000年前の歴史書である「史記」を読み解いて、中華歴史ドラマシリーズもより深く楽しんでみてはいかがでしょう。